たかがSNS、と思っていませんか。
私たちは、社会人になってからSNSが登場した世代です。名刺交換で仕事が回っていた時代に社会に出て、SNSは後から来ました。だから、見る専門の人が圧倒的に多い。投稿するのは若い人か、何かを売りたい人。そう感じている方も多いと思います。
今回は、その感覚をいったん脇に置いて、なぜ50代にこそ発信が必要なのかを、順番に書いてみます。出発点になるのは、多くの人が辞めてから気づく、ひとつの勘違いです。
実力があるのに声がかからないのは、なぜか
50代で会社を離れた人から、よく聞く話があります。経験もスキルも十分にある。人柄も悪くない。それなのに、仕事が来ない。本人はたいてい「実力が足りないのか」と考えます。
でも、これは実力の問題ではありません。「社会資本」の問題です。
山口周さんが『人生の経営戦略』で書いている、三つの資本の考え方があります。経験やスキルは「人的資本」。それが「社会資本」を経由して、収入という「金融資本」になる。順番は、この一方向です。
50代は、人的資本が人生で最大の時期です。30年分の経験が積み上がっている。それでも収入に届かないのは、真ん中の社会資本が抜けているからです。人的資本は、社会資本を経由しないと金融資本になりません。
社会資本とは何か——信用×認知
では、社会資本とは何か。私は「信用×認知」だと考えています。
- 信用は、過去の実績に基づく評価。「この人なら任せられる」と思われていること
- 認知は、思い出してもらえること。「あの件なら、あの人」と名前が浮かぶこと
足し算ではなく掛け算です。どちらかがゼロなら、社会資本もゼロになる。実力があるのに声がかからない人は、信用はあっても、認知のほうがゼロになっているケースがほとんどです。
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定義
- 社会資本(しゃかいしほん)= 信用 × 認知
- 個人が持つ社会的な資本のこと。「この人なら任せられる」という信用と、「あの件なら、あの人」と思い出してもらえる認知の掛け算で決まる。掛け算のため、どちらかがゼロなら社会資本もゼロになる。経験やスキル(人的資本)は、この社会資本を経由しなければ収入(金融資本)にならない。
そしてここが本題です。この社会資本は、会社にいる間、会社の看板が自動で作っていました。
その社会資本は、誰のものだったか
会社にいる間、私たちはこう評価されていました。
「○○の部長だから、優秀に違いない」。評価されているのは、その人ではなく○○社の過去の実績です。
「△△といえば、○○だね」。思い出されているのは、その人の名前ではなく○○社の名前です。
会社にいる間は、自分に社会資本があるように見えていた。でも、持ち主は会社でした。私はこれを「みなし信用」と呼んでいます。この状態そのものについては、別のコラムで詳しく書きました。
会社を離れると、社会資本は会社に返ります。残るのは人的資本だけ。それを自分の名前の社会資本に変える作業を、これからは自分でやることになります。
だから、やっぱりSNS
自分の名前で社会資本を作る。そう言われても、どこで作ればいいのか。
会社の看板がやっていたことを分解すると、二つです。「この人は信用できる」と思わせること。「あの件なら、あの人」と思い出させること。この二つを、個人がゼロから積み上げられる場所が、SNSです。
投稿すると、認知が生まれます。思い出してもらえるようになる。認知が積み重なると、フォロワーという形で「信用」が目に見えるようになる。信用があると、次の投稿がさらに届く。投稿→認知→信用→投稿。この循環を、会社にいる間は会社が回してくれていました。これからは自分の手で回す。
宣伝の道具でも、自己顕示の場でもありません。個人が社会資本を作れる、ほぼ唯一の低コストな装置。それがSNSです。
「何ができる人ですか?」に答えられるか
では、何を投稿すればいいのか。ここで多くの人が止まります。
「何ができる人ですか?」——会社を離れた50代が、いちばん詰まる質問だと思います。
30年やってきたから、何でも語れる。営業も、管理も、人事も、新規事業も。でも、何でも語れる人は、誰にも思い出されません。「△△といえば、あの人」の△△が決まっていないからです。
ダイエット本が無数にある理由を考えてみてください。薬を飲む、糖質を抜く、スムージーを飲む。方法論はバラバラですが、構造は同じです。「太っている一番の課題は何か」の置き方が違うだけ。糖質だ、と決めるから、「だから糖質を抜こう」が成立します。
一番の課題を決めるから、解決策が決まる。解決策が決まるから、何を解決する人かが決まる。何を解決する人かが決まって、初めて何ができる人かが決まる。発信の軸は、ここからしか決まりません。
この「一番の課題は何か」という見立てが、あなた独自の視点です。同じ景色を見ても、どこを視るかで一番の課題は変わる。これが、ポジショニングです。
なんでもできる必要も、なんでも語れる必要もありません。何にイラっとするのか。何を見るともやっとするのか。その感覚を、徹底的にフォーカスする。視点は、そこから見つかります。
実績ゼロでも、ポジショニングは決められる
ポジショニングの話をすると、必ず出る反応があります。
「実績がないから、発信できない」
気持ちはわかります。信用とは過去の実績に基づく評価だと、先ほど書きました。では、実績ゼロの人はどうすればいいのか。
答えは、見立ては語れる、です。
何を一番の課題と考えているかは、実績がなくても語れます。あくまで、あなたの視点だからです。そして、その視点を言い続ける。言い続けた先に、同じ課題を持つ人からの反応があり、それが実績になっていきます。
実績がポジショニングをつくるのではありません。ポジショニングが実績を創るのです。
会社にいる間は、当たり前にそうしていたはずです。「うちは△△の会社です」と先に旗を立て、それに合う仕事を取り、実績を積んだ。旗が先で、実績が後。それなのに、自分の話になると逆になる人が多い。実績を先に集めてから、旗を立てようとする。
もう一つ。実績が1000あっても、それが散らばっていれば刺さりません。投稿を一枚の地図に打っていったとき、点があちこちに散っていれば、見ている人は「で、何の人?」となります。一箇所に集まって初めて、「この課題なら、あの人」になる。
順番を間違えない
ポジショニングが決まったら、それをどこに置くか。
LinkedInなら、名前のすぐ下の一行、ヘッドラインです。会社名と肩書きだけが書いてあると、「みなし信用」の状態がそのまま表示されてしまう。ここに、一番の課題と解決策を一行で置く。
✕ 株式会社○○ 営業本部 部長
◯ 現場が新しい仕組みに反対する理由をほどく人|製造業の業務改善30年
そして順番です。顔が見える→つながる→コメントする→発信する。「投稿から始める」が最大の失敗で、社会資本は「顔」と「文脈」がないと積み上がりません。この手順は、『50代からのLinkedIn』に詳しく書きましたので、そちらをご覧ください。
たかがSNS、やっぱりSNS
会社にいる間の社会資本は、会社のものでした。会社を離れると、それは会社に返る。だから、自分の名前で作り直す。
作るのは、信用と認知。決めるのは、一番の課題。置くのは、ヘッドライン。
気づくのが遅かった、と思う必要はありません。ほとんどの人が、辞めてから気づきます。そして、気づいた時点からしか始まりません。人的資本を社会資本へ変換するとは、こういうことです。
たかがSNS、やっぱりSNS。
よくある質問
なぜ50代にSNSが必要なのですか?
会社の看板が自動で作っていた信用と認知を、自分の名前で作り直す必要があるからです。会社にいる間は「○○社の部長だから優秀に違いない」という評価が自動的に与えられていますが、それは会社の実績への評価であり、退職とともに会社へ戻ります。SNSは、個人がゼロから信用と認知を積み上げられる、ほぼ唯一の低コストな装置です。
実力があるのに声がかからないのはなぜですか?
実力の問題ではなく、社会資本が不足しているためです。経験やスキル(人的資本)は、社会資本を経由しなければ収入(金融資本)になりません。50代は人的資本が人生で最大の時期ですが、会社を離れると社会資本は会社に戻るため、真ん中が抜けた状態になります。
社会資本とは具体的に何を指しますか?
信用と認知の掛け算です。信用は過去の実績にもとづく「この人なら任せられる」という評価、認知は「あの件ならあの人」と思い出してもらえることを指します。掛け算なのでどちらかがゼロなら社会資本もゼロになります。実力があるのに声がかからない人は、信用はあっても認知がゼロになっているケースがほとんどです。
実績がなくても発信できますか?
できます。実績がなくても「何を一番の課題と考えているか」という見立ては語れます。それはあなた自身の視点だからです。その視点を言い続けることで、同じ課題を持つ人からの反応が生まれ、それが実績になっていきます。実績がポジショニングをつくるのではなく、ポジショニングが実績を創ります。